得意先が破産した場合は貸倒損失を計上できる?計上するタイミングはどうなる?
今回は得意先の破産に伴う貸倒損失の計上時期について争われた裁決(平成20年6月26日裁決)のご紹介となります。
もちろんこの事例をもって、どのような事例にもそのまま適用できるわけではありません。
一方で、その判断の理由を知ることで実務にも活かせる部分があるのではないかと感じますので、しっかりと学んでいきたいと思います。
貸倒損失と言えば法基通9-6-1~9-6-3までを思い浮かべがちですが、これらの通達の中には破産という文言は出てきません。それでは、得意先の破産の場合はどのように取り扱われるのか見ていきたいと思います。
貸倒損失の指針となる法人税基本通達
貸倒損失と言えば、法人税基本通達9-6-1~9-6-3を思い浮かべる人が多いはずです。
今回の裁決を見る前に確認をしておきましょう。
法基通9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)
いわゆる法律上の貸倒れと言われるものですね。
破産もこちらに入ってきそうですが、破産という文言は見受けられません。
9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」、平11年課法2-9「十四」、平12年課法2-19 「十四」、平16年課法2-14「十一」、平17年課法2-14「十二」、平19年課法2-3「二十五」、平22年課法2-1「二十一」により改正)
(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
法基通9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)
次は、事実上の貸倒れと言われるものです。
結論から言うと、破産はこちらのカテゴリーに入ってくることになるようですね。
9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」により改正)
(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。
法基通9-6-3(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)
最後の3つ目は形式上の貸倒れと言われるものです。
実務上の便宜を図ってくれるもので、要件に該当する場合は、優先的に検討したいところです。特に(1)に注目ですね。
9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(昭46年直審(法)20「6」、昭55年直法2-15「十五」により改正)
(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。
今回の裁決の論点
さて、今回の本題に移りたいと思います。
この裁判では得意先の破産に伴う貸倒損失の計上時期が論点となっています。
ざっくりとしたあらすじとしては、まず、売掛債権を有する得意先が破産します。その後、最後配当そして破産終結から数年たってから貸倒損失を計上したものの税務署に否認されたというものです。
こちらの裁決を読むことで、破産の場合はどのような考え方で、そして、どのようなタイミングで貸倒損失を計上するのかを学ぶことが出来るのではないかと思います。
どのように判断されたのか
それでは、審判所の判断を確認していきたいと思います。
金銭債権の貸倒れの考え方
まずは、金銭債権の貸倒損失の考え方を示します。
イ 上記1の(3)のイの(イ)のとおり、法人税法第22条第3項第3号は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものと規定し、また、同条第4項は、同条第3項第3号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。また、法人の有する金銭債権について貸倒れが発生した場合には、その貸倒れによる損失はその法人の損金の額に算入されることとなるが、これは、その貸倒れによって金銭債権の資産価額が消滅すること、つまり、貸倒れによる金銭債権全体の滅失損を意味する。したがって、法人が所有する金銭債権が貸倒れとなったか否かは、第一次的には、その金銭債権全体が滅失したか否かによって判定され、その債権が滅失している場合には、法人がこれを貸倒れとして損金経理しているか否かにかかわらず、税務上はその債権が滅失した時点において損金の額に算入することとなる。
金銭債権の消滅した時点が損金算入の時点だということですね。
破産の場合の考え方
そして、本題の破産の場合の考え方に移ります。
ところで、法人の破産手続においては、配当されなかった部分の破産債権を法的に消滅させる免責手続はなく、裁判所が破産法人の財産がないことを公証の上、出すところの廃止決定又は終結決定があり、当該法人の登記が閉鎖されることとされており、この決定がなされた時点で当該破産法人は消滅することからすると、この時点において、当然、破産法人に分配可能な財産はないのであり、当該決定等により法人が破産法人に対して有する金銭債権もその全額が滅失したとするのが相当であると解され、この時点が破産債権者にとって貸倒れの時点と考えられる。なお、破産の手続の終結前であっても破産管財人から配当金額が零円であることの証明がある場合や、その証明が受けられない場合であっても債務者の資産の処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま破産終結までに相当な期間がかかるときは、破産終結決定前であっても配当がないことが明らかな場合は、法人税基本通達9-6-2を適用し、貸倒損失として損金経理を行い、損金の額に算入することも認められる。
まず、赤字部分で、破産の場合の「金銭債権の消滅=貸倒れ」の時点を示します。
簡単にまとめると以下のような感じでしょうか。
- 破産は法的に債権を消滅させる免責手続きはない
- 廃止決定・終結決定により破産法人は消滅する
- その時点で金銭債権も全て消滅したと考えるので貸倒損失を計上するタイミングとなる
破産は法的に債権を消滅させる免責手続きはないから法基通9-6-1に記載されていないという考え方で良いのでしょうか。こちらは裏を取れていませんが、何となく腑に落ちる気はします。
廃止決定や終結決定前であっても貸倒損失を計上できるケース
そして、青字部分で廃止決定や終結決定前であっても以下のようなケースでは貸倒損失を計上できることを示します。
- 破産管財人から配当金額が零円であることの証明がある場合
- 債務者の資産処分が終了し回収が見込まれないまま破産終結までに相当な期間がかかり配当がないことが明らかな場合
そして、このケースでは、法基通9-6-2が根拠になると示しています。
こちらのケースで貸倒損失を計上する場合は、証拠書類を以下に残せるかが実務上のポイントになりそうですね。
まとめ
金額の大きな貸倒損失の計上は、税務調査で必ずと言っていいくらいに確認されるところですので、貸倒損失の計上可否、そして、計上時期には神経を使うところです。
今回の裁決は実務的にもとても重要なものではないかと感じますので、ご参考になれば幸いです。
今後コロナ融資の返済が始まるとこういった問題に直面する場面も増えてくるのかもしれませんね。今回の裁決は分量も比較的少なく非常に読みやすかった印象がありますので、是非、一読してみてはいかがでしょうか。